ベランダの水瓶の中で飼っている金魚が、春になると機嫌良さそうに泳いでいて、
僕を見ると餌を求めてパクパクと口を動かしながら近づいて来る。
僕はそれに「おはようさん」と声をかけながら餌をやる。
小さな意思疎通。何気ない朝のお気に入りの日課だ。
それが先日見ると金魚が一匹残らずいなくなっていた。死体も無く姿を消している。
よく見ると水草が食い荒らされた後がある。
あぁ。あいつか。
ちょうどベランダから見える電柱の上にカラスが巣を作り、子供を育ててているようだった。
リビングにいる子どもたちに言った。
「金魚が食われた…。」
「え?なんで?何に?」
「カラスやな。アイツや。俺のファミリーを殺した奴は殺さなあかんな。それが血の掟や。エアガン買って来て撃つぞ。」
「えー。そんなんしたらあかんねんで。」
「でもあいつは俺の大切な家族を殺したぞ。」
そうギャングっぽく憤ってみたけど、そんな怒りが湧いてくるわけでもなく、心は静かだった。
自然の掟。命の流転。あいつだって子供に食わせているんだ。
それからしばらくして電力会社がクレーン車に乗ってやってきて、電線の保全のためにカラスの巣の撤去にかかったようだ。
それを見ていた妻が後に話していた。
まだ子供だったカラスは上手に飛べなかったようで、巣から落下しながらも羽ばたいて、なんとか小学校の裏庭のビニルハウスの屋根に着地したようだ。
巣を奪われる間も親ガラスは何もできず、撤去する人間の周りを抗議するように飛び周るだけだったようだ。
電力会社が帰った後も、妻は窓から見える学校の裏庭を気にしては心配そうに見ている。
「まだ小ガラスおるわ。飛べないからどこにも行けへんのかな。親ガラスはあそこで見てるわ。」
気にかけて心配してる。
時々、生ゴミをつつかれて散らかされては怒っているけれど、家族の金魚も食ったけど、今そこで生きようとしている命には抗えない。
どうにか元気でいてくれたら良いなと思う。
その一方で僕らは、うまいうまいと焼き鳥を食う。
生命の掟。命の流転。
命を愛し、命を食う。
決して、どちらか一方ではありえなようだ。
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